2017-06-02
110年ぶりの刑法改正―「性暴力の根絶は社会の意識変革なしにはあり得ない」
2017年6月2日 第193国会 衆議院本会議
○池内さおり君 私は、日本共産党を代表して、強姦罪の構成要件及び法定刑を改めて強制性交等罪とするなどの刑法改正案について質問をいたします。(拍手)
まず、日本の性犯罪の現状についてです。
性暴力は魂の殺人と言われています。被害者の心身、生活全般に長期の深刻な打撃を与え、PTSDをも発症させます。
しかし、被害申告できる人はごくわずかで、2014年の内閣府調査で、異性から無理やり性交された経験のある女性のうち、警察への相談は4%にすぎません。被害者数は、実に推計年間16万人に上りながら、警察に届けられるのは数%、検挙、起訴されて有罪が言い渡される加害者は500人にとどまっています。重大なことは、圧倒的多数の被害が見えなくさせられていることです。
先日、検察審査会に申し立てた詩織さんは、レイプの被害に遭ったことで、性犯罪の被害者を取り巻く法的、社会的状況が、被害者にとってどれほど不利に働くものか痛感したと述べています。告訴をし、逮捕状が出ていたにもかかわらず、加害者は逮捕もされず、不起訴とされたというのです。大多数の加害者が野放しにされています。この現実をどう認識していますか。関係大臣の答弁を求めます。
現行刑法は、110年前、家父長制のもとで、女性が無能力者とされていた時代に制定されました。強姦罪の保護法益は、性的秩序の維持や貞操の保護というものでした。この規定は今日まで抜本改正がないまま運用されてきました。戦後、個人の尊厳、男女平等を定めた日本国憲法のもと、保護法益は性的自由などとする解釈に変更されてきましたが、同じ条文で異なる保護法益を実現することは不可能なのです。
現に、最も権威のある教科書とされた「注釈刑法」1965年版は、「些細な暴行・脅迫の前にたやすく屈する貞操の如きは本条によつて保護されるに値しない」としていました。こうした考え方が、今日でも、司法、捜査当局に大きな影響を与えているのではありませんか。
今回の改正に当たり、保護法益を性的自由にとどめず、心身の完全性、人間の尊厳、人格そのものを脅かす性的暴行からの保護と、抜本的に改めるべきではないですか。
国連は、女性に対する暴力を定義し、性に基づく一切の暴力を根絶する姿勢を明確にしました。さらに、ジェンダーバイアス、性差別に基づく偏見を取り除き、真に被害者の視点に立ち、各国は法改正をこの30年間積み重ねてきたのです。我が国刑法が規範としてきたドイツでも、昨年、被害者の明示的な意思に反すれば、暴行、脅迫要件は不要、このような改正が行われました。各国の動向をどう認識していますか。
我が国は、国連諸機関から、構成要件の見直し、夫婦間強姦規定の明示、13歳以上とされている性交同意年齢の引き上げ等の勧告を繰り返し受けてきました。どのように受けとめ、実現するおつもりですか。
被害を訴え出るまでには長い時間を要します。公訴時効の撤廃、あるいは未成年が成人するまで時効を停止するなど、欧米諸国や韓国並みの制度にするべきではありませんか。
性暴力の根絶は、社会の意識変革なしにはあり得ません。ワンストップ支援センターを国連が求める20万人に一カ所設置することは急務です。加害者への適正な処罰、刑務所内外での更生プログラムの制度化、警察、検察、裁判官へのジェンダー教育の抜本的強化を求めます。
最後に、世界経済フォーラムが公表したジェンダーギャップ指数で、我が国は144カ国中111位と極めて不名誉な位置にあります。個人の尊厳は、あらゆるセクシュアリティーを生きる人々に保障されなければなりません。今回の改正を第一歩に、さらなる改正を求め、質問を終わります。(拍手)
○国務大臣(金田勝年君) 池内さおり議員にお答えを申し上げます。
まず、性犯罪の被害者による被害申告等の状況についてお尋ねがありました。
警察に認知されていない性犯罪の件数については把握することが困難でありますが、性犯罪は特に被害が潜在化しやすい犯罪であると認識をしております。性犯罪の加害者に対し適正な刑事処分を行うことは重要であり、被害者のプライバシーの保護や心情への配慮を徹底することなどを含め、被害が潜在化しないよう取り組みを進めることが重要であると考えております。
次に、検察当局による性犯罪事件の処理に関するお尋ねがありました。
個別事件における捜査の具体的内容についてはお答えを差し控えますが、一般論として申し上げれば、検察当局は、事件の処理に際しましては、所要の捜査を遂げた上、法と証拠に基づいて適正に対処しているものと承知をいたしております。
次に、強姦罪の保護法益と条文の位置のあり方等についてお尋ねがありました。
強姦罪等の性犯罪の保護法益については、現在、一般に、性的自由または性的自己決定権と解されており、刑事事件の実務もそのような解釈に基づいて運用されており、保護法益に関するかつての考え方が強姦罪の解釈に影響しているものではないと認識をいたしております。また、刑法典は必ずしも保護法益ごとに章立てされているものではないこと等から、現時点で、強姦罪等の条文の位置を変更する必要はないものと考えております。
さらに、強制性交等罪などの性犯罪は、被害者の人格や尊厳を著しく侵害するものであると認識しておりますが、刑法上の罪の保護法益は、一定程度具体化された利益として把握されているものと考えられます。そして、被害者の人格や尊厳を侵す犯罪は性犯罪に限られないことからも、人格や尊厳を性犯罪の保護法益とするのは抽象的に過ぎると考えられるわけであります。
次に、諸外国における性犯罪の罰則の改正の動向に関するお尋ねがありました。
諸外国の法制度を網羅的に把握しているものではありませんが、例えば、ドイツでは、昨年、暴行、脅迫がなくても、被害者の認識可能な意思に反して性的行為を行うなどした場合には処罰を可能とする規定が新設されたものと承知をしております。
もっとも、我が国においても、被害者の拒絶の意思が認識可能なほどにあらわれている状況で性交等に及んだ場合には、その過程での行為が暴行または脅迫と認められるものと考えられますので、ドイツのような法改正が我が国においても有効であるかについては、その運用の実情を見る必要があるものと考えております。
今後も、諸外国の法改正の動向については、適切に把握してまいりたいと考えております。
次に、強姦罪の構成要件の見直し等に関する国際機関からの指摘に関するお尋ねがありました。
今回の改正案は、国際機関からのさまざまな指摘をも考慮したものであり、例えば、強姦罪の構成要件の見直し、性犯罪の非親告罪化等については、国際機関からの指摘に沿ったものとなっております。
また、国際機関からの指摘があった事項のうち、今回の改正案に取り入れていないものもありますが、立案の過程におきましては、それらの指摘も十分に考慮し、検討の対象としたものと認識をしております。
次に、性犯罪の公訴時効の撤廃や停止についてお尋ねがありました。
時の経過による証拠の散逸等に基づく法的安定の要請と犯人処罰の要請の調和という公訴時効制度の趣旨に鑑みますと、性犯罪についてのみ公訴時効を撤廃し、または未成年の被害者の事件についてのみ公訴時効を停止することについては、慎重な検討を要するものと考えます。
最後に、性暴力の根絶に向けた取り組みなどについてお尋ねがありました。
性犯罪の根絶に向けた各種の取り組みを推進していくことは重要であると考えております。
法務省としても、性犯罪者の再犯を防止するため、刑事施設及び保護観察所において、性犯罪を行った者に対する処遇プログラムを実施しているところであり、今後ともプログラムの着実な実施に努めてまいります。
さらに、検察官等が性犯罪の捜査や公判を適切に行うための教育や研修等も重要であり、その充実に引き続き取り組んでまいります。(拍手)
○国務大臣(加藤勝信君) 池内議員より、性暴力の被害者の相談の現状に関する認識についてお尋ねがございました。
性犯罪や性暴力は、人権を著しく踏みにじる、決して許されない行為であります。
内閣府の調査では、異性から無理やりに性交された被害経験のある女性のうち約七割は誰にも相談しておらず、その心理的な状況から、相談できずに一人で抱え込んでいる、そうした状況にあると認識しております。
政府では、第四次男女共同参画基本計画に基づき、被害を訴えることをちゅうちょせずに必要な相談を受けられるような相談体制の整備や、被害者の心身回復のための被害直後及び中長期の支援が受けられる体制整備などに取り組んでいるところであり、引き続き、関係省庁とも連携して、適切に対応してまいります。
また、ワンストップ支援センターの早期設置などについてお尋ねがありました。
政府では、現在、性犯罪や性暴力の被害者に対し、心身の負担を軽減するため、第四次男女共同参画基本計画に基づき、被害直後から相談を受け、医療的な支援、心理的な支援などを可能な限り一カ所で提供するワンストップ支援センターの設置を促進しております。
今年度予算において、性犯罪・性暴力被害者支援交付金を新たに設けたところであり、この交付金を活用し、全都道府県でのワンストップ支援センターの早期設置とその安定的な運営を図るとともに、関係機関との連携の強化など、今後とも引き続き、地域の実情に応じた被害者支援の充実に取り組んでまいります。(拍手)
○国務大臣(松本純君) 性犯罪の被害を届け出ることができない方々が多くいる現実についてお尋ねがありました。
性犯罪の被害者は、精神的なダメージなどから被害申告をためらう場合も多く、性犯罪は特に被害が潜在化しやすい犯罪であります。
警察においては、被害が潜在化しないよう、警察本部や警察署の性犯罪捜査を担当する係への女性警察官の配置促進、性犯罪被害者に対する相談体制の充実などを進めており、引き続きこれらの取り組みを推進するよう警察を指導してまいります。
次に、性犯罪の加害者に関する認識についてお尋ねがありました。
性犯罪を犯した者は、再び類似の事件を起こす傾向が強いことなどから、犯行を抑止するため、迅速に捜査を進めることが重要であります。
性犯罪の捜査に当たっては、大きな精神的ダメージを受けている被害者の心情に寄り添い、被害者の負担をできる限り小さくするよう心がけながら、必要な証拠の収集、確保に向け、迅速かつ適正な捜査を推進するよう、引き続き警察を指導してまいります。
警察官へのジェンダー教育について御質問がありました。
警察では、性犯罪捜査における被害者への対応を初めとするさまざまな活動において、人権に配慮した適切な対応をとることが求められております。
このため、警察では、警察学校や職場での教育など、さまざまな機会を捉えて、人権に配慮した活動についての教育を行っているところであり、今後とも推進してまいりたいと考えております。(拍手)