2017-06-07
性犯罪に関わる110年ぶりの刑法改正―あらゆる領域でジェンダーバイアスを取り除く取り組みを
2017年6月7日 第193国会 法務委員会
○池内委員 日本共産党の池内さおりです。
ジャーナリストで、準強姦被害を検察審査会に訴えている詩織さん、私、会見を拝見しました。真っすぐに顔を上げて、被害者らしく弱い存在でいなければならないという状況に疑問を感じる、隠れていなければならない、恥ずかしいと思わなければならない、そういう状態にとても疑問を感じたと述べていらっしゃいました。
私は、本当に、被害者というのは全く悪くないというふうに思います。自分の体は自分のもので、意に反する性的接触で自分の境界を侵害されていいはずがありません。性暴力は許されない、被害者を守る社会に変えるために今回の刑法改正が力とならなければならないというふうに思います。
本会議で大臣も、被害者のプライバシー保護や心情への配慮を徹底するなど含めて、被害が潜在化しないように取り組みを進める、このように御答弁されて、被害暗数を減らし、申告をふやすことの重要性を答弁されました。
非親告罪化は重要な改正だと思います。一方で、被害当事者の小林美佳氏が、プライバシーや生活が守られる仕組みや安全が完全に確保される必要がある、このように発言されているように、非親告罪化に伴う被害者のプライバシー保護の徹底がますます必要になっていると思います。
改正によって新たな措置というのは講じられるんでしょうか。
○林政府参考人 委員御指摘のとおり、この非親告罪化に伴いまして、被害者のプライバシー保護というのは非常に重要なことであると考えております。
この被害者のプライバシー保護といいますのは、これまでにも、性犯罪被害者に限ったものではないわけでございますが、刑事手続における被害者のプライバシーあるいは名誉、こういったものを保護するための方策、あるいはその負担を軽減する方策として、制度として次のようなものがございます。
公開法廷における被害者特定事項の秘匿、あるいは証拠開示の際の証人等の安全についての配慮及び被害者特定事項の秘匿、また証人尋問の際の付き添い及び遮蔽及びビデオリンク方式による証人尋問、こういった制度がこれまでつくられてきたわけでございます。
さらには、これは運用としてでございますけれども、性犯罪等の被害者特定事項について、起訴状における記載方法の配慮、これは運用の中でこういった配慮を行っておるわけでございます。また、証拠開示におけるマスキングということも行っております。
こういった、これまでにも構築されてきた制度あるいは運用というものを、今後とも、性犯罪の非親告罪化に伴いましてさらに拡充、徹底して行うことが求められていると考えております。
○池内委員 つまりは、新しい措置はないということだと思います。
大きな負担となっているのは、捜査、裁判という刑事手続の中で、またマスコミやネットに情報が流れることで二次被害、セカンドレイプを受けることです。警察や検察、加害者側弁護士がしばしば被害者に、あなたにもすきがあったんじゃないか、うそをついているんじゃないか、あなたも楽しんだんでしょうと、こんなことを聞いている。これが実態であって、被害者はこうした事実を恐れています。
事件とは関係のない性経験を詳細に聴取され、プライバシーが侵害されている、この実態を大臣は御存じでしょうか。これが被害申告をためらう大きな要因になっている、大臣にはそうした認識はありますか。
○金田国務大臣 池内委員にお答えをいたします。
性犯罪の被害者にとりましては、その被害状況に関する聴取を受けるということは精神的負担が大きいものであることは申し上げるまでもない、このように受けとめております。
検察当局においては、被害者の方の聴取に際しましては、その名誉、プライバシーそして心身の状況といった点に十分配慮しているものと承知をしているわけでございまして、事件とは何ら関係のない性経験を詳細に聴取するような実態があるとは私は受けとめておりません。万一そのように受けとめられているとすれば被害申告をためらう要因となりかねないことは、御指摘のとおりであります。
そして、検察当局においては、引き続き、被害者の心情等に配慮した捜査、公判活動に努めるとともに、被害者の思いに沿いながら、現在取り組んでいる被害者保護の施策について広く周知をするように努めていくものと考えておるところであります。
○池内委員 あると受けとめていないと。これは、ぜひ現場の実情を大臣には知っていただきたいというふうに私は改めて思います。
2013年7月、鹿児島地裁の準強姦の強制起訴事件において、裁判長が、被害者、これは当時未成年の女性ですけれども、判決に向けて被害者の人となりを知るためだ、このように言って、性体験に関する質問を行い、指定弁護人から異議が出されるという事態が起きました。裁判長自身が、未成年者、この被害者のプライバシーをさらすかのような、これは辱めを与えているではないかと思うんですね。
こうしたことは、この事件に限ったことではありません。こうした事実、出来事を防ぐための一つの手段がレイプシールド法。アメリカの州、そしてその他の国々のレイプシールド法について説明を願います。
○林政府参考人 いわゆるレイプシールド法といいますのは、被害者の性的経験や傾向に関する証拠を裁判に提出することを原則として禁止する、こういった内容とする外国の法制度でございます。
当局において全て網羅的に把握できておりませんが、例えばアメリカ、米国の連邦証拠規則におきましては、被害者が他の性的な行為にかかわっていたことを立証するための証拠、また被害者の性的傾向を立証するための証拠については、一定の場合を除きまして、性犯罪に関する刑事訴訟で立証に用いることは許容されない、こういった内容、規定になっているものと承知しております。
○池内委員 諸外国でも、被害者の過去の性的な経験、被害者の人格や供述の信頼をおとしめ、加害者の減刑のために利用されてきたという事実があって、事件とは無関係な被害女性の性行動の情報を証拠採用できなくするというふうにすることでプライバシーを保護し、裁判官に偏見を持たせる証拠を避けることができる。アメリカでは、今お答えがあったように、被害者の性的経歴についての無関係な証拠の採用を禁じているし、オーストラリアにもこのような法律はあるし、インドですよ、インドも2003年に改正をしています。
我が国でもこうした仕組みがあれば被害者はもっと訴え出ることができるようになるんじゃないでしょうか、大臣。
○井野大臣政務官 先ほど法務省刑事局長の方から御紹介がありましたレイプシールド法についてでございますけれども、我が国においては当然まだこれを採用しているわけではございません。
その理由としてですけれども、憲法で保障されている被告人の反対尋問権の制約にならないかどうかであったり、また、現行法では、刑事訴訟法の規定によって、事件に関係のない被害者の性的な経験や傾向に関する尋問等については裁判長の適切な訴訟指揮によって制限することが可能で、そのように予定されているというふうに我々は考えております。
したがいまして、現時点において、レイプシールド法については、その要否を含めて慎重な検討を要するのではないかというふうに考えております。
○池内委員 一日も早く日本にも導入すべきだということを強く求めたいと思います。
暗数を減らすために、このレイプシールドというのは不可欠だと私は思います。現にアメリカでは、この法のもとで被害者に敬意を払った対応というのが進んで、被害者が通報するようになりました。
刑法改正だけでは、被害者は訴え出ることなんてできません。本来ならば、刑法改正を諮問する際に同時に諮問すべきだった課題だと思う。早急に、これは本当に求めたいと思います。
捜査や公判のこうした過程で、性的偏見によって被害者のプライバシーが侵害をされている。
ジェンダーバイアスについてお聞きしますけれども、文化的、社会的に醸成された当たり前のこととして受容されている性差別に基づく偏見のことです。性犯罪の捜査、司法におけるジェンダーバイアスは理解されているんでしょうか。
きょうお配りの配付資料をごらんいただきたいんですけれども、この資料は、ゴルフ練習場経営者で、指導も行っている60代の男性が、教え子の当時18歳の高校生だった女性への準強姦罪に問われた事件です。最高裁まで争って昨年無罪となり、けれども、民事訴訟で女性に損害賠償が認められました。
この事件は、性犯罪として初めて検察審査会による強制起訴が行われたものです。検察官は、嫌疑不十分として不起訴の判断 をしました。検察審査会が二度の議決を行いました。二度目の議決では、下線部ですけれども、犯行は計画的であった、被疑者は、度胸をつけるためだと言葉巧みに申立人をゴルフの指導を口実にホテルへ連れ込み、申立人が抵抗できないように、部屋を施錠して密室状態をつくり出し、ゴルフの弱点を指摘するなど30分間説教しており、申立人のおとなしく従順な性格を利用して、心理的、精神的に被疑者からの姦淫行為を受け入れざるを得ない状況に追い込んで、被疑者は申立人を抗拒不能の状態に陥れた、十分に被疑者の故意を認定できるというふうに議決しました。そして、被疑者が、性交の承諾はなかったが嫌がっているとも思わなかったとしていることに対し、申立人の供述の信用性を認めて起訴相当という議決をした、これが流れです。
これに対して、高裁の判決は驚くべきもので、被害者の抗拒不能を認めながら、加害者が弱者の心情を理解する能力や共感性に乏しい無神経な人物で、被害者の強い抵抗がないことを消極的な同意と受けとめた可能性が否定できない、そのため、被害女性が抗拒不能状態にあったことを認識して、これに乗じて性交したとまでは認められないと、無罪判決が下されました。最高裁では、上告棄却ということになりました。けれども、こんな事案はフランスの刑法であれば加重強姦に当たる、そういう事例です。
検察審査会の市民感覚と、起訴をしなかった検察官、無罪判決を下した裁判官に著しい認識の乖離があるように思います。つまり、深刻なジェンダーバイアスがあるのではないか。これは最高裁と刑事局長にお聞きします。
○平木最高裁判所長官代理者 一般論として申し上げますと、各裁判官は、一件一件証拠に基づいて適切に判断しているものと承知しております。もっとも、裁判所といたしましても、被害に遭ったときの被害者の心理状態等をよく理解し、適切に事実認定を行うことは重要であると考えております。
そこで、司法研修所では、刑事事件を担当する裁判官を対象とした研究会において、性犯罪の被害者の支援に長年携わっている大学教授を講師としてお招きして、被害時の被害者の心理状態やその後の精神状態等について理解を深める講演を行っていただくなど、被害者への配慮に関する研修を行っております。
裁判所といたしましては、このような研究会を通じて被害者の心理状態等の理解に努めてまいりたいと考えております。
○林政府参考人 御指摘の事案において検察官の判断それから検察審査会の判断が分かれたわけでございますが、検察当局におきましては、個別具体的事案に即しまして、法と証拠に基づいて事件を処理したものでございます。
すなわち、特にその証拠の評価というものについて意見が分かれたわけでございますけれども、これが、検察官にジェンダーバイアス、性差に基づく偏見があり、それに基づいてこのような評価が分かれたというふうには認識しておりません。
いずれにいたしましても、個人が性別にかかわりなく尊厳を重んぜられて、その人権が尊重されるべきことは言うまでもありませんので、検察当局においては、今後とも、引き続き、それを前提といたしまして、法と証拠に基づいて捜査、公判活動に当たっていくものと承知しております。
○池内委員 加害者が無神経だったことを理由に無罪にされる、こんな犯罪がほかにあるでしょうか。こういう価値判断をしてしまうところに、歴史的に社会的に醸成されてきた性差別意識があるのではないか、これを問うたのでありまして、きちんと答弁いただきたかったというふうに思います。
本当に嫌ならもっと激しく抵抗したはず、逃げられたのになぜそうしなかったのか、こういう強姦神話が被害者のリアリティーからかけ離れて、抵抗が弱いから同意していたとされている。しかし、トラウマ研究の進展で、突然の性暴力という異常な体験に対して、被害者がフリーズ反応を引き起こしたり、衝撃が強くて感情が麻痺をして、事件の次の日も平気で仕事に行っていたというふうに解されてしまう、そのように外形上は見えてしまう、そういうことも往々にしてあることが明らかになっている。
裁判官は強姦神話にとらわれていないんでしょうか。被害者の行動、トラウマ被害を十分に認識しているのでしょうか。
○平木最高裁判所長官代理者 先ほども申し上げましたとおり、裁判所といたしましても、被害に遭ったときの被害者の心理状態をよく理解して適切に事実認定を行うことは重要であると考えておりまして、先ほど申し上げましたような研究会を通じるなどして被害者の心理状態などの理解に引き続き努めてまいりたいと考えております。
○池内委員 裁判官が個人的な経験則やまた思い込みによって価値判断を下すようなことがあったら、本当に大変なことだと思います。
裁判員制度の導入の後、性犯罪の量刑というのは、特に強姦致傷罪では若干重い方へとシフトしています。この点で、裁判員に性犯罪を裁かせることは危険ではないかと職業裁判官が危惧していましたけれども、むしろ真の危険は、性犯罪の違法性、保護法益、被害の実態が正確に理解されず、経験則もジェンダーバイアスや時代おくれの強姦神話に基づいており、罰せられるべき加害者が無罪や不当に軽い刑に処され、逆に被害者は二次被害、セカンドレイプやPTSDに苦しんできた、日本の刑事裁判そのものに潜んでいたのではないかと強調したいと、島岡まな大阪大学教授が厳しく批判をしています。私は、このことを肝に銘じるべきだというふうに思うんです。
強姦罪の起訴率の低下が著しい。1998年の72.3%から徐々に低下をして、強姦罪の下限が2年以上から3年以上に引き上げられ、これが2004年でしたけれども、この2004年を経て、2005年からは低下の一途をたどっています。一昨年は35.3%に半減しました。
嫌疑不十分による不起訴が増大しています。不起訴のうち嫌疑不十分が4割から5割を占めている、この理由は何でしょうか。内閣府の女性に対する暴力専門調査会では、学識経験者の方がこう言っています、検察は顔見知りの事件を起訴しない傾向があると。この指摘はどうでしょうか。
○林政府参考人 御指摘の強姦罪の起訴率、ここ十年ほど低下傾向にあるということは承知しております。ただ、これは刑法犯全体についても同様の傾向が見られております。強姦罪に限って起訴率が低下しているものとは認識しておりません。
また、この起訴率でございますが、個別具体の事案に即しての起訴、不起訴の判断の集積でございますので、起訴率の低下について、その原因あるいは評価を一概に述べることはやや困難であろうかと思います。
その上で、顔見知りの場合と顔見知りでない者との判断で検察官の評価が違うかどうかということでございますが、この強姦罪について見れば、既に検挙件数のうち半分半分、顔見知りの者による犯行あるいは顔見知りでない者の犯行、これはほぼ半々でございます。
捜査、公判の実務におきましては、被疑者となっている者については半分が顔見知り、半分が顔見知りでない、そういった件数になっておりまして、こういった状況のもとで、検察官が、顔見知りの場合にはどのような起訴をする傾向があるか、あるいは顔見知りでない場合にどのような起訴をするのかということについては、その判断の中で全くその傾向はないものと考えております。
○池内委員 今、強姦罪の起訴率が低下しているということはお認めになっている。
ほかのも起訴率は下がっていると言ったんですけれども、でも、強盗の起訴率というのはおおむね6割から7割で推移していますよ。殺人罪だって実質5割程度。強姦罪は格段に、これはほかとは比べられないぐらいに低下しているということは私は言っておきたいし、また、半分半分だとおっしゃったけれども、暗数が物すごく多いということを考えれば、本来であればもっと性犯罪としてちゃんと処罰しなきゃいけないものが隠れているということを私は指摘したいというふうに思います。
2008年6月の大阪地裁の強姦罪無罪判決は、24歳の被告が出会って二日目の14歳の少女を姦淫した事件ですけれども、被害少女が性交に同意していなかったことを認めながらも、加えられた暴行の程度に関し、被告人が被害少女の足を開く行為及び被害少女に覆いかぶさる行為が、犯行を著しく困難にする程度の有形力の行使であるとは認めがたいというふうにしました。結局、叫ぶほどの拒絶、本気で抵抗するべきものという裁判官の強姦神話、女性に対する厳格な貞操維持の義務を求めているとしか思えない判決じゃないかと思います。
起訴した検察は、こうした無罪判決が出ると、負けてしまうんだったら起訴しないという方向に流れるんじゃないですか。
○林政府参考人 検察官といたしましては、法と証拠に基づきまして、その場合に検察官として起訴するかどうかについては、的確な証拠によって有罪判決が得られる高度の見込みがある場合に限って公訴を提起するという運用が行われてきております。
この点につきましては、性犯罪あるいは強姦罪とかいうものの罪名にかかわらず、全体として、検察官の処理といたしましてはそのように行っているということでございます。
○池内委員 これだけ不起訴がふえています。その理由が何なのか。暴行、脅迫要件の立証が困難なのか、故意の認定が困難なのか、顔見知り、監護者以外、親族からの被害がどの程度かなど、さまざま要因があると思うんですね。
法務省自身が、なぜここまで不起訴がふえているのか検証していただきたいし、研究者などがその内容をトレースできるように情報も提供すべきだと私は思います。この点も強く検討を求めたいというふうに思います。
次に、内閣府の調査では、性暴力事件の7割から8割程度が顔見知りの加害者によって行われている、このことが明らかになっています。これは、民間団体の相談現場での実感や、諸外国の傾向とも重なるものです。
顔見知りの間でこそ、暴行、脅迫を立証しにくい、被害が潜在化している。嫌疑不十分の不起訴というのがこれだけふえているというのは、私は何度も繰り返していますけれども、ますます潜在化していくのではないか。積極的に起訴すべきじゃないでしょうか。
○林政府参考人 先ほど申し上げましたが、被疑者と被害者が顔見知りであるか否かによってその被害者の例えば信用性を判断している、そういったことはございません。やはり個別の具体的な事案に即して、関係証拠の中で起訴すべき事件は適切に起訴しているものと承知しております。
○池内委員 顔見知りの間だと、暴行、脅迫というのは必ずしも必要ない場合がやはり多いわけですよね。必ずしも必要ではない。そうすると、この暴行、脅迫要件というのが被害者にとってはどう働くかといえば、やはり被害の選別化に働いているのではないか、みずからの被害を立証するときに物すごく大きなハードルになっている。性行為の同意の有無こそ、構成要件にすべきじゃないですか。
○林政府参考人 同意の有無そのものを直接の構成要件にした場合、これについては、同意というものの立証というのは非常に困難なものがございます。そういったことによりまして、同意の有無を直接構成要件にした場合に、かえってその立証のハードルが高くなるといったことはあり得ることと考えます。
さらには、立証のみならず、同意の有無で構成要件を考えた場合に、どの場合に犯罪が成立するかということになりますと、交際関係のある例えば男女の場合に、どのような場合に犯罪が成立し、どの場合に犯罪が成立しないかということについては、当事者にとりましてもなかなか予測が困難、可能性が低くなる、こういった問題もございます。
そういったことから、同意の有無そのものを構成要件とするということ、すなわち、例えば暴行、脅迫という構成要件を撤廃して、構成要件の中に同意があるかないか、同意がない場合の性交を犯罪とする、こういうふうに定めた場合には、その立証の点におきましてもそうですが、当事者における犯罪成立の予測可能性というものもかなり低くなってしまう、そういった問題があろうかと思います。
○池内委員 現実に、被害者がどれだけ抵抗したかということが常に問題にされる。でも、被害者からすれば、嫌なものは嫌だし、つまり、ノー・ミーンズ・ノーと世界の女性たちが声を上げているように、嫌なものは嫌なんですよ。
立証が難しいとおっしゃった。でしたら、なぜ同意があると思ってしまったのか、加害者の側に挙証責任を負わせるべきじゃないですか。
○林政府参考人 もちろん、仮に加害者の側に同意があったものの挙証責任を負わせるという形にすれば、立証は非常に容易なものとなると思います。しかしながら、刑事訴訟法におきましては全て検察官が挙証責任を負うというのが大原則でございまして、その部分について挙証責任を転換するということについては、刑事訴訟法の基本構造との関係で、かなりそれは問題が大きいものと考えます。
○池内委員 刑事訴訟法の基本構造で個人の人権が虐げられるというのはおかしいと思います。性犯罪のときにやり方を変えるということは幾らでもできるんじゃないか。今おっしゃいましたよね、挙証責任を加害者に負わせれば立証は大分やりやすくなる、容易になると。だったら、やってください、被害者の個人の人権を守ってくださいよということを私は言いたいと思う。
実は今、私が何だかとっぴなことを言っているとお感じになるかもしれないけれども、世界ではこのような法改正が進んでいるということなんです。
欧米諸国では30年から40年前から刑法を改正してきて、韓国もそうですね、我が国が参考にしてきたドイツでも、昨年の改正で、被害者の明示した意思に反すれば暴行、脅迫は不要、このように改正をしました。そのほかにも、加害者と被害者の年齢差や、社会的地位、親族からの被害や、教師と教え子、地位や関係性を利用した類型を処罰するという法改正が何度も重ねられています。レイプシールド法とあわせて、被害者が身の安全を確保する、訴えやすい状況を社会としてふやしてきているわけです。こうした刑法や刑事司法の手続の改革が、女性が積極的に被害を訴えられるように変化をもたらしている。
法務総合研究所の研究が指摘しているフランスの事例を読み上げてください。
○高嶋政府参考人 御指摘の箇所は、法務総合研究所研究部報告38の16ページ目、下から5行目から17ページ目3行までの8行ということでよろしいかと思いますが、読み上げます。
フランスにおける性犯罪の発生件数は増加傾向にあるが、この背景には、性犯罪を警察に届け出やすい環境の整備(例えば、既述の性犯罪に関する公訴権の消滅時効に関する法改正等)及び国民、特に女性の権利意識の変化があるようである。すなわち、以前は性犯罪の被害、特に家庭内や親族間で起きた強姦事件等については、被害者である女性が警察に被害届を出さない傾向が見られたが、20年ほど前から、女性の人権意識(自己の権利はだれにも侵されることのない絶対的で崇高な性質のものであるとの意識)の高揚とともに、自ら警察への被害届や通報をためらわずに行うなど、女性の性犯罪の被害に関する意識が徐々に変化しており、これが統計的に性犯罪の増加をもたらした大きな要因の一つであると考えられている。
以上でございます。
○池内委員 声を上げやすい、暗数を減らす、こういう努力があれば、女性たちはエンパワーメントされて、自分の被害を被害として認識し、立ち上がることができる。ぜひ、この方向での改正をさらに求めていきたいと思います。
次に、構成要件についてお聞きします。
改正百七十七条は行為者及び被害者の性別を問わないとした点、ジェンダー中立化が図られて、評価ができる、本当に大事なことだというふうに思います。しかし、あくまでも男性器の挿入行為に限定をされ、強制性交と強制わいせつでは法定刑が全く違っています。性的侵入に対する重大性の認識が極めて浅いのではないかと思います。
性的侵入を男性器に限って重く処罰する国というのは一般的なんでしょうか。
○林政府参考人 諸外国の制度を網羅的に把握はしておりませんけれども、当局が把握している限りでは、強姦罪の対象行為を男性器の挿入に限定して、男性器以外の例えば異物挿入に関する罪について、これとは別に軽い法定刑を定めている国あるいは州としましては、アメリカにおけるニューヨーク州、それから大韓民国があるものと承知しております。
○池内委員 つまり、世界的に見て、男性器に限っている国は本当に少数派です。しかも、韓国では男性器と異物を分けているけれども、法定刑の上限は30年以下で一緒です。イギリスでは性的侵入は何でも、別に男性器であろうが指であろうが異物であろうが、上限は終身刑となっています。しかし、日本では男性器以外の挿入というのは強制わいせつ罪になって、強姦罪とは大きな法定刑の差がある。
こうした状況について、刑法学者からは、男性器の女性器への挿入行為を特別に扱い、それ以外と区別する発想は、家父長制度のもとで男系の血統の維持を目的とした従前の強姦法の考え方を引きずったもの、このように批判をされています。こうした批判をどう受けとめますか。被害者からすれば、とりわけ子供にとっては、異物挿入であっても極めて深刻な事態じゃないでしょうか。
○林政府参考人 御指摘は、例えば膣や肛門等への異物等の挿入について、強制わいせつ罪よりも重いけれども強姦罪よりは軽い犯罪、こういったものを処罰類型としてつくってはいかがか、そういったものをしないのは、男性器挿入ということについて、今委員が御指摘のような考え方に立っているのではないかという御質問だと思います。
異物を膣や肛門等に入れる行為につきましては、異物にもさまざまなものがございます、類型的に強制わいせつよりも重く処罰する異物の範囲、これを定めることは困難であると考えます。
また、異物の挿入は、その異物の性状や行為態様に応じて、法定刑の上限が懲役十年であるところの強制わいせつの枠内で、事案の実態に即した対処をすることが可能であります。そのようなことから、異物の挿入行為につきましては強制わいせつ罪よりも重い犯罪を設けて処罰することは今回はしていないということでございます。
他方で、異物の挿入が強姦罪、今回でいう強制性交等罪と全て同質の当罰性があるかと言われましたら、そうではないと考えておりますので、今回、そういった考え方から、このような異物挿入について特別の類型とすることにしなかったものでございまして、男性器挿入というものにこだわっている、そういうものではございません。
○池内委員 被害者のリアリティーからはかけ離れた答弁だったと思います。その認識自体が世界から物すごくおくれているという自覚をぜひ持っていただきたいと思うところです。
今回の法改正ではまだまだ足りない、構成要件をもっと強化して改正すべきだと思います。子供を保護するという観点で極めて不十分です。
今回、監護者わいせつ及び監護者性交等罪が新設されますが、この規定だけでは、先ほどの鹿児島のようなスポーツ指導者と教え子、こうしたケースは救えないということになります。欧米諸国では、子供への性被害は加重する、これが当たり前です。
今回の改正は、新設された罪はありますけれども、法定刑を見ればそのようにはなっていません。成人するまでの公訴時効の停止、撤廃も盛り込まれていない。いわゆる性交同意年齢についても、一般的に日本人よりも未成年者の成熟度が早いと言われている欧米諸国でも15歳、16歳が通常で、つまりそれだけ子供を性的被害から国家として保護している。
明治時代の13歳にとどめおいていいんでしょうか。我が国の子供は、欧米諸国、韓国などと比べて格段に性暴力、性犯罪からの保護のレベルが低いと、大臣、思いませんか。
○盛山副大臣 今回の法案というのは、我々としては、児童に対する性犯罪への厳正な対処という視点での改正というふうに捉えることができるのではないかと考えております。
法制審議会の刑事法部会におきましても、年少の児童に対して口腔性交をした等の事案が多くあるとの指摘があるところ、口腔性交につきまして、これまでは強制わいせつ罪で対処するほかなかったわけでありますが、今回の法案により、強制性交等罪として重く処罰することが可能となっております。
また、家庭内における児童に対する性犯罪は、新設された監護者性交等罪によって、より事案の実態に即した処罰が可能になると考えております。
さらに、家庭内の性的虐待事案では親からの告訴が得られにくい事案もあると承知しているところ、今回の法案により性犯罪が非親告罪になることから、この種の事案について、告訴がなくとも早期に警察等が介入することが可能となると考えております。
また、教師やスポーツのコーチ、こういったことにつきましても、先ほども御答弁したところでありますが、事案に応じて準強制わいせつ罪、準強制性交等罪、児童福祉法違反が成立し得ることとなりますので、この点においても、児童の保護という点については我々も考慮したつもりでございます。
○池内委員 今御答弁されたような事実を認識されたということはとても大事だと思うんですけれども、でも、もっと幅広く視野を持っていただいて、限りなく全ての性暴力を許さない、きちんと性犯罪として取り締まるのだ、こうした構えで子供たちを守っていきたいし、その点ではやはり不十分だと言わないといけないと思います。
今や世界では、法律、政策など、あらゆる領域とレベル、社会の隅々においてジェンダー平等を目指すジェンダー主流化、この潮流が当たり前になっています。
私がきょうずっと明らかにしてきたように、今、検察官も裁判官も約八割が男性で、男性中心の物の考え方、物の見方が社会規範として浸透しています。そして、その浸透してしまったジェンダーバイアス、とらわれた目で見ていると、何が不正義かはわからなくなります。気づきにくい。
自分の中に内面化されているこのジェンダーを自覚して、そしてこのジェンダーバイアスを取り除いていくという訓練は一朝一夕ではできない。私は、本当にこれはやらなきゃいけない課題だし、男女平等というのが単なるつけ足しじゃないんだったら、この改革こそ必要だというふうに感じています。
刑事司法におけるジェンダーバイアスをなくすための教育、1980年代からアメリカを初め諸外国で既に行われています。こういう事例を参考にジェンダー教育を強化していくというのはいかがでしょうか、裁判所そして刑事局長。
○堀田最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。
司法研修所におきましては、性差に関する問題について裁判官が理解を深めるということの必要性を理解しておりまして、そういった理解のもとに、これまでも裁判官に対しまして、性犯罪、DV、セクシュアルハラスメント、女子差別撤廃条約等に関する研修を実施してきたところでございまして、今後も、研修の必要性を踏まえました上で適切に研修を実施してまいりたいと考えているところでございます。
○林政府参考人 検察官の研修につきましては、必ずしもジェンダー教育という位置づけをしているものではございませんけれども、性犯罪被害者等の立場を踏まえた捜査、公判のあり方といった教育及び男女共同参画に対する理解を深めるための教育、このようなものを実施しているところでございます。
○池内委員 どちらも今お答えいただいて、裁判官の研修の資料をいただきましたけれども、これを見ても、性暴力に特化したもの、またジェンダーに特化したものもありません。検察の方は、過去七年間を振り返っていただきましたけれども、性犯罪被害の心理に配慮した取り調べ、この研修が489時間の間にわずか2時間30分行われただけ。やはりこれでは、被害者は真の意味で救われないというふうに思うんですね。
今回の刑法の改正は本当に第一歩、今後検討を進めるに当たっては検討会や法制審議会の委員の人選が非常に重要だと私は思います。ジェンダー法学専門の有識者を多数選任するように求めます。
○小山政府参考人 お答えを申し上げます。
法制審議会についてのお尋ねでございます。
法制審議会は、民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議することなどを目的とするものでございまして、このような性格から、法制審議会の調査審議に当たりましては、法律専門的な調査検討のほか、経済社会の急激な変化及び複雑化に適切かつ迅速に対応する必要があるものと認識しております。
このような観点から、法制審議会の委員につきましては、幅広い意見を述べていただくために、公正かつ均衡のとれた構成になるよう配意いたしまして、法律専門家あるいは一般有識者といった多様な立場の方々を適切に任命しているものと認識しております。
また、この委員の人選につきましては、総会、部会のいずれにいたしましても、今委員の御指摘がございましたようなさまざまな観点から御意見をいただいてきたところでございます。
今後とも、この委員の人選につきましては、さまざまな御意見を踏まえまして、先ほど述べました法制審議会の設置の趣旨、目的に照らしまして、委員により代表される意見、知識経験等が公正かつ均衡のとれた構成になるよう留意し、適切な人選に努めてまいりたいと考えております。
○池内委員 適切かつ迅速にジェンダー主流化を実現していただきたいと思います。
最後に、110年ぶりのこの刑法改正が国民の意識にどのように反映していくのか、継続的な調査をぜひ行っていただきたいと思いますが、いかがですか。
○金田国務大臣 池内委員の御質問にお答えをいたします。
今回の法改正は、これまでも何度もお話が出ておりますが、明治40年に現行刑法が制定されて以来初めて、性犯罪の構成要件等を大幅に見直すものであります。今回の法改正を機に、性犯罪が決して許されないものであるとの意識を社会全体にさらに醸成するということが重要であると考えております。
そこで、私ども法務省としましては、ホームページへの掲載を初めとする広報活動のほか、国会での御審議や記者会見などのさまざまな機会を通じまして丁寧に御説明をすることにより、御指摘のように国民に法改正の内容を浸透させていきたい、このように考えております。
現時点では、法改正が国民の意識にどのような影響を与えるのか、その中身がどの程度国民に浸透するのかについて直接の調査を予定しているものではないわけですけれども、今後とも、刑法等の罰則を可能な限り時代の要請にかなったものとするために必要な検討や調査を行ってまいりたい、このようにも考えておる次第であります。
○池内委員 時間なので終わりますが、きょう質問できませんでしたが、加害者更生プログラム、こうした取り組みも本当に重要だというふうに認識しています。私も性暴力を絶対許さない日本社会をつくるために頑張る決意を申し上げまして、質問を終わります。
ありがとうございました。